不動産営業は「きつい仕事」だと言われています。実際、私の30年にわたる営業経験の中でも、不動産営業ほど精神的にも体力的にも大きな負担がかかる仕事を見たことがありません。
しかし、その「きつさ」は決して乗り越えられないものではありません。むしろ、正しい知識と対処法を身につけることで、大きな成果と成長につなげられる可能性を秘めているのです。
私は大手ハウスメーカーで15年間プレイヤーとして活動し、営業2000名中TOP0.5%以内を何度も達成し、その後15年間マネージャーとして数多くの営業マンを指導し成果を出させることも実現してきました。その経験から言えることは、不動産営業の「きつさ」の正体を理解し、適切に対処できれば、誰でも成果を出せるようになるということです。
本記事では、不動産営業が「きつい」と言われる具体的な理由と、その対処法について詳しく解説していきます。これから不動産営業を始めようと考えている方も、現在悩みを抱えている方も、きっと道筋が見えてくるはずです。
1.不動産営業が「きつい」と言われる5つの理由と具体的な対処法
不動産営業の「きつさ」には、はっきりとした理由があります。その理由を知り、適切な対処法を実践することで、多くの課題は解決できます。それでは、具体的な理由と対処法を見ていきましょう。
1-1.飛び込み営業・新規開拓の精神的負担
不動産営業で最も精神的負担が大きいのが、飛び込み営業と新規開拓です。特に経験の浅い営業マンにとって、見知らぬ人の家を訪問することは大きなストレスとなります。
しかし、この負担は「正しい準備と手順」を知ることで、大幅に軽減できます。私が30年間で培った経験から、最も効果的な対処法をお伝えします。
まず重要なのは、エリアの下見と情報収集です。訪問予定のエリアを事前に歩き、住宅の特徴や地域の雰囲気を把握しましょう。地域の特徴を理解していれば、会話のきっかけも自然と生まれます。
次に、最初の声かけを工夫します。「営業です」という言葉は絶対に使わず、「近隣の不動産相場調査をしております」など、相手にメリットのある切り口から入ります。これにより、会話のハードルを下げることができます。
そして最も大切なのが、「断り・拒否」を個人的なものと受け止めない心構えです。相手はあなた個人を否定しているのではなく、単にそのタイミングでニーズがないだけなのです。この考え方を持つことで、精神的な負担は大きく軽減されます。
具体的な声かけの例を見てみましょう。
「こんにちは。○○不動産の△△と申します。実は最近、このエリアで不動産売却のご相談が増えており、改めて相場調査をさせていただいております。お時間よろしければ、このエリアの最新の不動産相場についてお伝えできればと思います」
このアプローチであれば、相手も防衛的になりにくく、自然な会話につながりやすいのです。
1-2.⻑時間労働と不規則な勤務体系
飛び込み営業の次に不動産営業を「きつい」と感じさせる要因が、長時間労働と不規則な勤務体系です。お客様の都合に合わせた営業活動が基本となるため、夜遅くまでの商談や休日出勤が当たり前のように発生します。
しかし、この問題も計画的な時間管理と効率的な営業スタイルの確立で解決できます。具体的な改善方法として、以下の3つが特に効果的です。
- 商談時間を明確に設定する
- 休日商談は平日で調整する
- 移動時間を効率化する
それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
【商談時間を明確に設定する】
まず重要なのは、商談時間の設定です。初回の商談で「次回は〇時までに終わらせましょう」と具体的な終了時間を提案すること。これにより、お客様も時間を意識するようになり、結果的に要点を絞った効率的な商談が実現します。
【休日商談は平日で調整する】
休日の商談については、平日の午前中を確実に確保するという方法があります。例えば「日曜日にご都合が合うなら、代わりに水曜午前中はしっかりとプライベートの時間を確保する」といった具合です。このメリハリをつけることで、心身の疲労を大きく軽減できます。
【移動時間を効率化する】
移動時間の効率化も重要です。エリアごとに商談をまとめ、移動のロスを最小限に抑える。これだけでも、1日あたり1-2時間の時間短縮が可能です。
1-3.商談時のプレッシャー
不動産取引は人生の一大決断です。そのため、商談では常に大きなプレッシャーがかかります。特に、お客様の質問に対して即答できない場合や、競合他社との価格競争に直面した時のプレッシャーは想像以上に大きいものがあります。
このプレッシャーを軽減するためには、「準備」と「姿勢」の2つが重要です。
まず準備について。不動産営業で最も効果的なのが、スペック表による商品説明の徹底です。例えば、「この物件が他と比べて優れている3つのポイント」を常に整理しておく。さらに「なぜそれが優れているのか」の理由も準備しておく。このように、説明の軸を明確にしておくことで、商談時の不安は大きく軽減されます。
そして姿勢については、「お客様と一緒に最適な選択肢を探る」という考え方に切り替えることが重要です。単なる「売り込み」ではなく、「お客様の人生における重要な決断のサポート役」という意識を持つことで、不必要なプレッシャーから解放されます。
実際の商談では、次のような声かけを心がけましょう。
「今回の物件について、気になる点を正直にお聞かせいただけますでしょうか?そのうえで、私からもいくつかの解決案をご提案させていただきたいと思います」
このように、対話を通じて一緒に解決策を見つけていく姿勢を示すことで、お客様との信頼関係も深まり、結果的にプレッシャーも軽減されていくのです。
1-4.⽴て続けの商談失敗によるモチベーション低下
商談時のプレッシャーに加えて、さらに不動産営業を「きつく」感じさせる大きな要因が、商談の失敗体験です。特に、入念な準備をして臨んだ商談が続けて失敗すると、深刻なモチベーション低下を引き起こします。
私も営業マン時代、一週間で3件の大型案件が立て続けに失注し、一時は退職も考えました。しかし、この経験から学んだ重要な教訓があります。商談の失敗を「結果」として受け止めるのではなく、「次につながる学びの機会」として捉え直すことです。
具体的な対処法をお伝えします。まず大切なのが、失敗の分析です。例えば、「なぜ成約に至らなかったのか」を以下の3つの視点で整理します。
1つ目は「お客様のニーズと提案内容の整合性」。お客様が本当に求めていたものは何か、それに対して自分の提案は適切だったのか。
2つ目は「商談の進め方」。説明の順序や、質問への応対は適切だったのか。特に重要なのが、「お客様の反応が変わった瞬間」を記録しておくことです。
3つ目は「提案の伝え方」。お客様の立場に立った説明ができていたか、数字やデータを効果的に使えていたか。
このように失敗を分析し、次の商談に活かせる教訓を見出すことで、むしろモチベーションは高まっていきます。
1-5.厳しいノルマと収⼊の不安定さ
不動産営業で最も現実的な課題が、ノルマと収入の問題です。基本給に加えてインセンティブ制度があるため、成約状況によって収入が大きく変動します。これは多くの不動産営業マンにとって大きなストレス要因となっています。
しかし、この収入の不安定さも、正しい営業スタイルを身につけることで解決できます。重要なのは、「月単位」ではなく「四半期単位」で成果を考えるという発想の転換です。
具体的な方法をお伝えします。まず、3ヶ月間の活動計画を立てます。例えば、1ヶ月目は新規開拓に注力し、2ヶ月目は見込み客とのアポイント獲得、3ヶ月目は成約に向けた商談という具合です。
このように活動にメリハリをつけることで、毎月コンスタントに成果を出せるようになり、結果として収入も安定してきます。実際、私が指導した営業マンの多くは、この方法で年収1000万円以上を安定的に稼げるようになりました。
さらに、この3ヶ月サイクルの営業スタイルには、もう一つ重要な利点があります。それは、自分の営業プロセスを客観的に分析できるようになるということです。どの段階で成果が出ていないのか、どこを改善すべきかが明確になり、確実な成長につながっていくのです。
2.不動産営業を成功させる3つの鉄則
ここまで不動産営業の「きつさ」とその対処法について見てきました。では、こういった課題を乗り越えて、実際に成果を出すためには具体的に何が必要なのでしょうか。私の経験から、不動産営業で成功するための3つの鉄則をお伝えします。
2-1.顧客の気持ちに寄り添える営業スタイルの確⽴
不動産営業で最も重要なのは、お客様の人生における一大決断に、真摯に向き合える営業スタイルを確立することです。単なる「物件の売り込み」ではなく、「お客様の人生における重要な選択のサポート」という意識が必要です。
具体的な実践方法についてお話しします。最も効果的なのは、「お客様の決断プロセス」に合わせた提案の組み立て方です。例えば、初回面談では必ずこのような質問から始めます。
「今回の住まい探しで、特に大切にされている点はどのようなことでしょうか?」
この質問への回答から、お客様が本当に重視している要素が見えてきます。家族との時間なのか、将来の資産性なのか、それとも利便性なのか。この本質的なニーズを理解することで、その後の提案の質が大きく変わってきます。
2-2.時間管理と健康管理の重要性
不規則な勤務が避けられない不動産営業だからこそ、計画的な時間管理と徹底的な健康管理が成功の鍵となります。
時間管理については、「120分ルール」を強くお勧めします。これは、1回の商談を原則120分以内に収めるというものです。なぜ120分かというと、人間の集中力と意思決定のための最適な時間がおよそ2時間だからです。これを超えると、お客様も営業マンも疲労し、却って商談の質が低下してしまいます。
健康管理については、「7時間睡眠の確保」を絶対の原則としています。不動産営業は高度な判断力と交渉力が求められる仕事です。睡眠時間を削って活動時間を増やしても、判断力の低下によって却って成果は下がってしまいます。
2-3.知識と経験の戦略的な蓄積⽅法
不動産営業で成功するためには、体系的な知識の習得と、経験の効率的な蓄積が不可欠です。ここで重要なのが「デイリーレポート」の作成です。
私が実践してきた「デイリーレポート」は、その日の商談で得た気づきを以下の3つの視点で整理します。
1つ目は「お客様の反応が良かった説明や提案」。特に、お客様の表情が変わった瞬間の会話内容は必ず記録します。
2つ目は「よく受ける質問と、その最適な回答」。同じような質問は必ず繰り返し出てきます。その度に最適な回答を更新していきます。
3つ目は「商談の流れの中での重要な分岐点」。特に、商談が上手くいった時と、上手くいかなかった時の違いを細かく分析します。
この記録を1年間続けることで、あらゆる商談パターンに対応できる「引き出し」が自然と身についていきます。結果として、お客様からの突然の質問にも余裕を持って対応できるようになり、成約率も大きく向上していくのです。
3.なぜ不動産営業は優れたキャリアになり得るのか
ここまで、不動産営業の課題と対処法、さらには業界の将来性やキャリアステップについて見てきました。そして、不動産営業には大きな可能性があることが分かりました。
では、この可能性を現実の成果に変えるために、どのような考え方を持つべきなのでしょうか。結果を出せるかどうかの違いは、実は「考え方」に大きく左右されるのです。
3-1.他業種と⽐較した不動産営業の強み
不動産営業には、他の営業職にはない独自の強みがあります。最も大きな特徴は、「学歴や年齢に関係なく、実力と努力で収入を伸ばせる」という点です。
私の経験から言えば、不動産営業ほど努力が正直に結果に結びつく仕事は珍しいと感じています。例えば、一般的な営業職の場合、いくら頑張っても会社の規模や商品の制約によって収入の上限が決まってしまうことが多いものです。
しかし不動産営業の場合、1件あたりの取引金額が大きいため、数件の成約で年収1000万円を超えることも十分可能です。実際、私が指導してきた営業マンの中には、入社3年目で年収1500万円を達成した方も少なくありません。
3-2.経験者が語る不動産営業で得られる3つの財産
不動産営業で得られる財産は、単なる収入だけではありません。30年間この仕事に携わってきた私が確信を持ってお伝えできる、かけがえのない3つの財産があります。
- ビジネスパーソンとしての総合力
- 人生の機微を理解する力
- 困難を乗り越える精神力
それぞれについて詳しく説明していきましょう。
【ビジネスパーソンとしての総合力】
不動産営業では、法律や税務の知識はもちろん、金融や建築に関する知識まで幅広く身につきます。これらは、その後のキャリアでも大きな強みとなります。
【人生の機微を理解する力】
お客様の人生における大きな決断に関わることで、人の気持ちや価値観を深く理解する力が育まれます。これは、ビジネスだけでなく人生そのものを豊かにする財産となります。
【困難を乗り越える精神力】
3つ目は「困難を乗り越える精神力」です。確かに不動産営業は簡単な仕事ではありません。しかし、その分だけ成長できる機会も多いのです。この経験で培った精神力は、どんな困難な状況でも道を切り開いていく力となります。
3-3.成功への具体的なステップとタイムライン
不動産営業での成功は、決して遠い未来の話ではありません。具体的な目標を設定し、段階的に成長していくことで、3年程度で一人前の営業マンになることが可能です。
1年目は「基礎固めの期間」です。この時期は成約件数よりも、基本的な商品知識と営業スキルの習得に集中します。特に重要なのが、お客様との会話の中から真のニーズを見出す「ヒアリング力」の向上です。
2年目は「実践と検証の期間」です。基礎知識を活かしながら、自分なりの営業スタイルを確立していきます。この時期には、月に1-2件の成約を安定して獲得できるようになってきます。
3年目は「飛躍の期間」です。2年間の経験を活かし、より大きな案件にもチャレンジしていきます。この時期には、年収1000万円も決して夢ではありません。
重要なのは、この3年間を「修行期間」ではなく「成長期間」として捉えることです。毎日の経験を着実に積み重ね、一つ一つの商談から学びを得ることで、確実に成長への階段を上っていけるのです。
4.不動産営業で結果を出すために意識すべき考え⽅
不動産営業の将来性とそのステップについて理解いただけたところで、最後に、具体的な成果につなげるための心構えについてお話しします。結果を出せるかどうかの違いは、実は「考え方」に大きく左右されるのです。
4-1.「きつい」を「成⻑機会」に変える視点
不動産営業の「きつさ」は、見方を変えれば、すべてが成長につながるチャンスです。この視点の転換こそが、成功への第一歩となります。
例えば、飛び込み営業。多くの人が苦手意識を持つこの活動も、実は貴重な成長の機会です。なぜなら、見知らぬ方と会話を始め、信頼関係を築いていく過程で、コミュニケーション能力が大きく向上するからです。実際、私の経験でも、飛び込み営業を積極的に行った時期は、商談力が飛躍的に高まりました。
また、長時間労働への対応も同様です。限られた時間の中で成果を出すために、自然と時間管理能力が磨かれていきます。この能力は、その後のビジネスライフでも大きな武器となるはずです。
4-2.効率的な営業スタイル確⽴のポイント
効率的な営業スタイルを確立するために、最も重要なのは「準備の90%ルール」です。これは、商談における成否の90%が、商談前の準備で決まるという考え方です。
例えば、物件案内の前には必ず次のような準備を整えます。
まず、お客様の具体的なニーズを事前にヒアリングします。「駅からの距離」「予算」「間取り」といった基本的な条件だけでなく、「休日の過ごし方」「将来の家族計画」まで含めて把握します。
次に、その情報を基に、お客様にとってベストな物件、セカンドベスト、サードベストまでを必ず用意します。そして、それぞれの物件について「なぜこの物件をお勧めするのか」の理由を、具体的なデータと共に整理します。
さらに、想定される質問とその回答も準備します。特に「この物件のデメリット」については、正直に伝えられる準備をしておくことが重要です。このような誠実な対応が、結果として信頼関係の構築につながり、成約率を高めることになるのです。
4-3.成功する営業マンの習慣と⾏動特性
効率的な営業スタイルに加えて、成功する営業マンには共通の習慣と行動特性があります。これらは、意識的に実践することで誰でも身につけることができます。
最も重要な習慣は「朝型の生活リズム」です。なぜなら、不動産営業は夕方以降の商談が多くなりがちですが、そこで最高のパフォーマンスを発揮するためには、朝の時間を有効活用することが鍵となるからです。
成功している営業マンの多くは、朝7時には出社し、午前中に「その日の商談の準備」と「新規開拓の電話」を徹底的に行います。この習慣により、午後からの商談で余裕を持って対応できるようになります。
もう一つの重要な行動特性が「感謝の気持ちを言葉にする」ことです。例えば、お客様に「お時間を取っていただき、ありがとうございます」と伝えること。これは当たり前のようで、実は多くの営業マンが省略してしまいがちです。
しかし、この一言が、お客様との信頼関係を大きく変えるのです。なぜなら、この言葉には「お客様の時間を大切にする」という姿勢が表れているからです。結果として、お客様も誠実に対応してくださるようになります。
まとめ
不動産営業は確かに「きつい」と言われる要素を多く含んでいます。しかし、その「きつさ」は、正しい知識と対処法を身につけることで必ず乗り越えられます。
本記事でご紹介した内容をもう一度整理しましょう。
まず、不動産営業の「きつさ」の正体を理解し、それぞれに適切な対処法があることを知りました。次に、成功のための3つの鉄則として、顧客への寄り添い方、時間・健康管理の重要性、知識と経験の蓄積方法を学びました。
そして、不動産営業が優れたキャリアとなり得る理由と、具体的な成功へのステップを確認しました。最後に、結果を出すための考え方として、視点の転換や効率的な営業スタイルの確立について理解を深めました。
特に重要なのは、不動産営業は「才能や性格」ではなく、「正しい知識と努力」で成果が決まるということです。つまり、やり方次第で誰でも成功できる可能性を秘めているのです。
不動産営業の世界で、あなたの可能性を最大限に引き出してください。きっと、素晴らしいキャリアを築くことができるはずです。
コメントを残す