せっかく商品の説明をしたのに、お客様の反応が今ひとつ…。競合他社との差別化ができずに、価格の話ばかりになってしまう…。商談は進んでいるように見えても、なかなか成約に結びつかない…。
このように提案力に悩む営業マンは多いのではないでしょうか。お客様のニーズを正確に把握し、それに応える提案ができれば、成約率は確実に上がるはずなのに、どうしてもうまくいかない。そんな思いを抱えている方も少なくないと思います。
実は、提案力は特別な才能ではありません。提案力とは、お客様の本当の願望を理解し、その実現に向けて最適な商品やサービスを提示できる能力のことです。
私は営業の現場で30年間、数百名の営業マンを指導してきました。そこで気づいたのは、提案力の高い営業マンには、必ず共通する特徴があるということです。つまり、提案力は誰でも学び、身につけることができるスキルなのです。
今回は、これまでの経験から得た、提案力を高めるための具体的な手法をご紹介します。このブログをお読みいただければ、お客様から「この人に任せて良かった」と言っていただける営業マンになることができます。
- 提案力を高める5つの実践的な手法
- お客様から信頼される提案の基本原則
- トップセールスが実践している提案のコツ
- 提案力を継続的に磨いていく方法
1.提案力を高める5つの具体的な手法
提案力を高めるには、5つの具体的な手法を押さえる必要があります。それぞれの手法について、実践的な方法をご説明していきます。
1-1.お客様の本音を引き出すヒアリング力
提案力の基礎となるのが、お客様の本音を引き出すヒアリング力です。
商品説明の前に、まずはお客様の話に耳を傾けることが重要です。9割の顧客は、初回の商談で購入を決断します。そのため、最初の商談でお客様の本当のニーズを理解することが、成約への近道となります。
お客様の本音を引き出すポイントは、「お客様が何を実現したいのか」を理解することです。例えば、マンション購入を検討されているお客様に「どんな間取りをお探しですか?」と聞くのではなく、「理想の暮らしについて教えていただけますか?」と質問します。こうすることで、お客様は単なる物件探しではなく、実現したい生活について語ってくださるようになります。
話を聞く際は、以下の3つのポイントを意識することが大切です。
- お客様の言葉を遮らない
- 相槌を打ちながら傾聴の姿勢を見せる
- 「なるほど、○○ということですね」と、お客様の言葉を整理して確認する
業種別の、具体的なヒアリング質問例としては以下のような具合です。
「今のお住まいで、特に不便に感じていることはありますか?」
❷生命保険営業:
「将来のご家族の生活について、どんなことが心配ですか?」
❸自動車営業:
「休日は、どのように過ごされることが多いですか?」
これらの質問を入り口に、さらに踏み込んだヒアリングへと発展させていきます。例えば、不動産営業で「通勤が不便」という回答があれば、「具体的にどのような点が不便ですか?」「理想的な通勤時間はどのくらいでしょうか?」と掘り下げていきます。
また、お客様の言葉から重要なキーワードを拾い、それを起点に会話を広げることも効果的です。「子どもの教育」という言葉が出てきたら、「お子様の将来について、どのようなことを考えていらっしゃいますか?」と質問を投げかけます。
このように丁寧にヒアリングを行うことで、表面的なニーズだけでなく、お客様が本当に実現したいことが見えてきます。そうすれば、的確な提案ができるようになり、お客様からの信頼も自然と高まっていくのです。
1-2.競合との差別化ができる商品提案力
お客様の本音を引き出せたら、次は商品提案です。しかし、ここで多くの営業マンが陥る失敗があります。それは、自社商品の良いところばかりを一方的に説明してしまうことです。
商品提案で大切なのは、お客様が比較検討できる材料を提供することです。特にスペック表を活用した比較は、お客様の理解を深める効果があります。ただし、ここで気をつけたいのは、競合他社の悪口は絶対に言わないことです。
例えば、自動車の営業で「他社の車は燃費が悪いです」と言うのではなく、「弊社の車は10年間の維持費を計算すると、年間約15万円お得になります」というように、具体的な数字を示しながら提案することが重要です。
このように提案することで、お客様は自分で判断材料を得ることができ、より納得感のある決断ができるようになります。
1-3.お客様の立場で考える課題解決力
商品の特徴を説明できても、それがお客様の課題解決にどうつながるのかを示せなければ、真の提案とは言えません。提案とは、お客様の人生をより良くするための具体的な解決策を示すことなのです。
例えば、生命保険の営業で「この保険は死亡保障が3,000万円です」と説明するのではなく、「お子様が大学を卒業されるまでに必要な教育資金と、ご家族の生活費を考えると、このプランがお客様に最適だと考えられます」というように、お客様の生活に即した提案をすることが大切です。
そのためには、商品知識を深めることはもちろん、お客様の業界や生活環境についても理解を深める必要があります。知識は単なる武器ではなく、お客様の幸せを実現するための道具なのです。こうした姿勢で提案を行うことで、お客様との信頼関係はより強固なものとなっていきます。
1-4.商談の流れを作るプレゼン力
お客様のニーズを理解し、最適な商品提案ができても、その内容をうまく伝えられなければ意味がありません。そこで必要になるのが、商談の流れを作るプレゼン力です。
商談の成否を分けるのは、初回接客の最初の10分です。ここでお客様の関心を引き出せるかどうかが、その後の商談の流れを大きく左右します。
プレゼンで重要なのは、伝える順番です。まず最初に、お客様が抱えている課題に触れます。次に、その課題に対する解決策を示します。そして最後に、導入後のメリットを具体的に説明します。
例えば、不動産投資の提案であれば、次のような流れです。

「老後の収入に不安を感じていらっしゃるとのことですが(課題)、このワンルームマンションなら、家賃収入で毎月15万円の収入が見込めます(解決策)。ご退職後も、ゆとりある生活を送っていただけますよ(メリット)。」
課題:「老後の収入に不安を感じていらっしゃるとのことですが」
解決策:「このワンルームマンションなら、家賃収入で毎月15万円の収入が見込めます」
メリット:「ご退職後も、ゆとりある生活を送っていただけます」
・自動車営業の場合:
課題:「休日は家族で遠出したいけれど、燃費が気になるとのことですが」
解決策:「このハイブリッド車なら、1リットルあたり30キロ走行可能です」
メリット:「月々の燃料費を半分に抑えながら、思い立った時に遠出を楽しめます」
・生命保険営業の場合:
課題:「お子様の教育資金の準備に悩まれているとのことですが」
解決策:「この教育保険なら、毎月3万円の積立で大学進学時に600万円を確保できます」
メリット:「お子様の夢を、経済的な心配なく応援していただけます」
ただし、ここで注意したいのは、商品説明に時間をかけすぎないことです。お客様が本当に知りたいのは、その商品によって何が実現できるのかということです。
購入後の具体的なイメージを示すことで、お客様の決断を後押しすることができます。
1-5.成約に導くクロージング力
ここまでの4つの手法を実践できても、最後の成約に結びつかなければ意味がありません。しかし、多くの営業マンは「まだ考えます」と言われると、そこで商談を終わらせてしまいます。
成約へのタイミングを見極めるには、小さなYESを積み重ねていくことが重要です。例えば「この点については、ご納得いただけましたでしょうか?」「ここまでのご説明で、ご不明な点はございませんか?」といった確認を丁寧に行っていきます。
そして、お客様の反応が前向きになってきたら、「それでは、具体的な手続きについてご説明させていただきましょうか?」と、自然な流れでクロージングに入ります。この時、決して押しつけがましい態度は見せません。お客様が自然に「お願いします」と言いたくなるような、信頼関係を築いておくことが大切です。
契約を急がせたり、無理な押し付けをしたりすることは、むしろお客様との信頼関係を壊してしまいます。成約は、お客様の人生をより良くするための第一歩なのです。その思いを持って接すれば、お客様も必ず心を開いてくださるはずです。
2.お客様から信頼される提案の3つの原則
提案力の基本的な手法を理解したところで、より本質的な部分に踏み込んでいきましょう。提案力を真に高めるためには、お客様からの信頼を得ることが欠かせません。ここでは、トップセールスが実践している3つの原則をご紹介します。
2-1.誠実さを第一に考える
セールスの本質は、お客様の人生をより良いものにすることです。そのためには、誠実さを第一に考える必要があります。
短期的な売上を追求するあまり、お客様に不利な提案をしてしまうことは、決してあってはいけません。例えば、住宅ローンの返済額がお客様の収入に対して高すぎる物件を提案したり、必要以上の保障額の生命保険を勧めたりすることは、誠実な提案とは言えません。
提案前に、以下のチェックシートで確認することをお勧めします。
提案内容チェックシート | |
---|---|
□ この提案は、お客様の収入や資産状況に無理のないものか | |
□ この提案によって、お客様の生活の質は本当に向上するか | |
□ この提案内容を、家族や友人にも自信を持って勧められるか | |
□ お客様が決断を後悔する可能性はないか | |
□ より良い代替案は本当にないか |
このチェックシートを活用することで、より誠実な提案ができるようになります。
誠実な提案とは、時にはお客様の希望通りの提案を控えることも含みます。

「このプランですと、将来の教育費の支払いが厳しくなる可能性があります」

「ご予算を考えると、もう少しコンパクトな物件をお勧めします」
こういった提案ができてこそ、本当の信頼関係を築くことができるのです。
2-2.率直に伝える勇気を持つ
お客様との信頼関係を築くためには、都合の悪いことでも率直に伝える勇気が必要です。
例えば、「この地域は地震が起きた際の液状化リスクが高いです」「この保険は、○○の場合は保障の対象外となります」といった情報は、営業マンにとっては伝えづらいものです。しかし、このような情報こそ、お客様が意思決定する上で重要な判断材料となります。
率直に伝えることで一時的に商談が止まることもありますが、それは決してマイナスではありません。むしろ、「この営業マンは本当のことを話してくれる」という信頼を得ることができ、長期的な関係構築につながっていきます。
2-3.お客様の幸せを最優先する
提案の最終目的は、お客様の幸せを実現することです。これは単なる理想論ではなく、営業における重要な原則です。
お客様の幸せを最優先にするということは、時には目の前の成約を見送ることも意味します。例えば、お客様が興味を示している商品があっても、それがお客様のライフプランに本当に適しているのか、慎重に検討する必要があります。
ある生命保険の営業マンは、がん保険に興味を示したお客様に対して、「実は、お客様の年齢と予算を考えると、がん保険よりも医療保険の方が総合的な保障として適していると思います」と提案しました。このような提案ができるのは、お客様の幸せを最優先に考えているからです。
このように、お客様の利益を第一に考える姿勢は、必ず長期的な信頼関係とリピート、そして紹介につながっていきます。一時的な売上よりも、お客様の幸せを追求することこそが、結果として大きな成果を生むのです。
3.トップセールスの提案スタイル
信頼される提案の原則を理解したところで、具体的にトップセールスがどのように提案を行っているのか見ていきましょう。営業は再現性のあるサイエンスです。トップセールスには、必ず共通する提案スタイルがあります。
3-1.9割を初回接客で決める
トップセールスは、成約したお客様の9割を初回の商談で獲得しています。これは決して誇張ではありません。なぜなら、お客様の購買意欲は初回が最も高いからです。
例えば、マンション購入を検討されているお客様は、その日のために時間を確保し、様々な情報を集め、期待を持って来店されます。つまり、その時点でお客様の心は大きく開かれているのです。
以下の時間配分を意識することで、初回商談を効果的に進めることができます。
▼初回商談の理想的な時間配分 | ||
フェーズ | 時間 | ポイント |
---|---|---|
雑談・関係構築 | 5分 | 話しやすい雰囲気作り |
ヒアリング | 15分 | お客様の本音を引き出す |
商品説明・提案 | 20分 | 具体的なメリットを示す |
質疑応答・価格提示 | 15分 | 不安や疑問の解消 |
クロージング | 5分 | 自然な流れで契約を提案 |
しかし多くの営業マンは、「初回は信頼関係作りから」と考え、具体的な提案を次回に回してしまいます。これは大きな機会損失です。お客様の期待が高まっているタイミングこそ、最適な提案をすべきなのです。
3-2.商品説明より購入後の生活を語る
トップセールスは、商品の機能や性能を延々と説明することはしません。お客様が本当に知りたいのは、購入後の生活がどう変わるかだからです。
例えば、自動車の営業であれば「この車は燃費が良くて、安全装置も充実しています」という説明ではなく、「休日は、ご家族でドライブを楽しめます。燃費が良いので、遠出も気軽にできますよ」というように、具体的な生活シーンを描写します。
このように、お客様が実現したい生活や願望に焦点を当てることで、商品の価値をより深く理解していただけます。商品説明に終始せず、その商品によってお客様の生活がどう豊かになるかを具体的に語ることが大切です。
3-3.スペック表を戦略的に活用する
トップセールスは、スペック表を戦略的に活用して、お客様に自然な形で決断を促します。ここでのポイントは、お客様自身が比較検討できる材料を提供することです。
例えば、「他社の商品と比べても、弊社の商品は優れています」という主観的な説明ではなく、具体的な数値やデータを示しながら「このように比較していただくと、違いがはっきりとわかります」と提案します。
スペック表は単なる比較表ではありません。お客様が自分で判断できる材料を提供し、お客様自身の意思で最適な選択ができるよう導くためのツールなのです。トップセールスは、このようなツールを効果的に活用しながら、お客様の納得感を高めていきます。
4.提案力を磨き続けるための習慣作り
提案力は一朝一夕には身につきません。トップセールスは、日々の努力の積み重ねによって提案力を磨き続けています。ここでは、提案力を高めるために必要な習慣についてお伝えします。
4-1.毎日の準備を欠かさない
商談のない時間は、全て「準備」の時間です。トップセールスは、商談の合間を常に準備に使っています。これは単なる商品知識の勉強ではありません。
- 商品に関する最新情報
- 業界の動向
- 経済ニュース
- お客様の意思決定に関わる情報
例えば、不動産営業であれば、担当エリアの再開発計画や人口動態、地価の推移など、お客様の資産価値に影響を与える情報を、毎日チェックしています。この習慣があるからこそ、商談の場で具体的な数字を示しながら、説得力のある提案ができるのです。
特に翌日の商談準備は必ず行います。お客様の情報、提案内容、想定される質問への回答など、すべてを前日のうちに用意します。これにより、商談当日は余裕を持って対応でき、お客様との会話に集中することができます。
4-2.成功と失敗から学び続ける
営業は科学です。成功にも失敗にも、必ず理由があります。トップセールスは、それぞれの商談を振り返り、成功と失敗の要因を分析しています。
たとえ成約できた商談でも、「なぜお客様は決断してくださったのか」「どの説明が響いたのか」を振り返ります。また、成約に至らなかった商談では、「どこでつまずいたのか」「どんな提案が足りなかったのか」を徹底的に分析します。
この振り返りの習慣によって、提案の質は着実に向上していきます。失敗を恐れず、むしろ失敗から積極的に学ぼうとする姿勢が、提案力を磨く上で重要なのです。
4-3.お客様の声に真摯に向き合う
提案力を磨く上で最も重要なのは、お客様の声に真摯に向き合うことです。お客様からいただく言葉の一つ一つには、私たちの提案力を高めるためのヒントが隠されています。
例えば、「もう少し検討させてください」という言葉の裏には、「まだ決断できるだけの情報や確信が得られていない」という意味が含まれています。また、「他社でも検討してみます」という言葉には、「あなたの提案では、自分の課題が解決できると確信が持てない」というメッセージが隠されています。
トップセールスは、このようなお客様の言葉の真意を読み取り、次の提案に活かしています。そして、自分の提案に対するお客様の反応を、常に謙虚に受け止めているのです。
おわりに
提案力は、お客様の人生をより良いものにするための重要なスキルです。この記事でご紹介した内容は、私が30年間の営業経験の中で学んできた、実践的なノウハウです。
営業の本質は、単なる商品販売ではなく、お客様の幸せを実現することにあります。提案力を高めることは、その実現のための近道となります。
今日から実践できることから、ぜひ始めてみてください。お客様の声に真摯に耳を傾け、誠実な提案を心がけることで、必ず提案力は向上していきます。そして、その積み重ねが、お客様からの信頼と、安定した成果につながっていくのです。
最後に一つ、大切なことをお伝えします。営業は決して特別な才能ではなく、誰でも成功できる職種です。正しい理論と実践があれば、必ず結果は出せます。この記事が、あなたの提案力向上の一助となれば幸いです。
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