切り返しは一度だけ?営業で断られたときの本音の見分け方と引き際

断られた直後の一言で、商談の流れは大きく変わります。

「高いですね」「検討します」と言われた途端に言葉に詰まり、そのまま見送ってしまった経験はないでしょうか。住宅や車、保険のように高額で、お客様が慎重に考える商品ほど、断り文句は避けて通れません。

実は、私の経験では、断り文句の多くは、お客様が判断に必要な情報をまだ揃えられていないというサインなのです。つまり、断られた時点で商談が終わるわけではありません。

不動産業界の現役営業所長の堤です。私は不動産業界で30年間、営業の最前線で活動してきました。プレイヤーとして15年、そして営業マネージャーとしても15年の経験があります。

その間、営業2000名中トップ0.5%の成績を長らく維持し、さらに数百名もの営業マンを指導し、多くのトップ営業を輩出すると共に数多くの成功事例を見てきました。

この記事では、住宅・車・保険など、個人のお客様に高額な商品を売る対面の営業を想定して、断られた場面で使える切り返しの言葉に加え、断りの本音の見分け方、切り返さずに引くべき場面までお伝えします。読み終えるころには、次の商談で試す切り返しを1つ決められるはずです。

この記事でわかること
  • 「高い」「検討します」「家族と相談します」「他も見てから決めます」への切り返し方
  • 断りの本音を見分ける3つのタイプ
  • 切り返してよい場面と、引くべき場面の線引き
  • 押し売りに見えてしまうNG行動
  • 断られにくくする初回の準備と、切り返しを再現できる技術にする方法

目次

1.断られた直後に使える!断り文句別の切り返し方

個人のお客様への切り返しとは、お客様の本音を確かめ、判断に必要な情報を渡して、次の一歩を一緒に決める会話のことです。言い負かす技術ではありません。

手順は、断りを受け止める、引っかかっている点を確かめる、判断材料を示す、の3つです。センスではなく手順なので、誰でも再現できる技術です。

営業の現場では応酬話法とも呼ばれ、Yes But法やブーメラン法といった型の名前もあります。ただ、型を覚えるより先に、お客様の本音を確かめることを優先してください。

また、私の経験では、断りの多くは、あなたが否定されたからではなく、お客様がまだ判断できていないから出てきます。そう捉え直すだけで、次の一言が出やすくなります。

1-1.「高いですね」と言われたときの切り返し方

「高いですね」と言われたら、まず何と比べて高いと感じているのかを確かめます。多くの場合、断りではなく、価値が十分に伝わっていないか、支払いに不安があるというサインだからです。

他社の見積もりなのか、予算なのか、毎月の支払いなのかで、返す言葉はまったく変わります。ここで値引きの話に飛びつくと、価値の話に戻れなくなります。高いは、断りではなく確認のサインだと捉えてください。

【言い方の例】

お客様:「ちょっと高いですね。」

営業マン:「率直に言っていただいてありがとうございます。差し支えなければ、何と比べて高いと感じられたのか教えていただけますか。」

お客様:「他の会社の見積もりより、かなり上なんです。」

営業マン:「ありがとうございます。同じ条件で比べないと正確に判断できませんので、見積もりの内訳を一緒に見せていただけますか。」

お金の不安であれば、毎月いくらなら無理なく払えるかを、生活費も含めて確認します。ローンや税金の個別の判断は、金融機関やFP、税理士へつなぎましょう。

1-2.「検討します」と言われたときの切り返し方

「検討します」と言われたら、いちばん気になっている点を一つだけ聞きます。迷いが残っているサインであることが多く、何も聞かずに見送ると、その迷いは解消されないまま、お客様の記憶から消えてしまうからです。

聞くのは責めるためではなく、検討しやすくするためだと伝えます。そうすれば、お客様は安心して本音を話してくれます。

【言い方の例】

お客様:「いい車ですね。少し検討します。」

営業マン:「ありがとうございます。ぜひご検討ください。ちなみに、いちばん気になっている点はどこでしょうか。そこだけ先に整理できれば、検討しやすくなると思います。」

お客様:「毎月の支払いが続けられるか、少し心配で。」

営業マン:「大切なところですよね。毎月無理のない額から、一緒に確認させてください。」

それでも持ち帰りたいお客様は、引き止めず、気持ちよくお送りします。その場で、連絡してよい日と連絡方法を確認しておきましょう。

後日の連絡では、連絡の目的を伝え、気になっていた点の判断材料を添えます。お客様が希望された連絡手段と時間帯を守ることも大切です。

1-3.「家族と相談します」と言われたときの切り返し方

「家族と相談します」と言われたら、相談を止めず、ご家族に説明しやすい材料を渡します。決めるのが別の人であるか、家族に伝える材料が足りないというサインだからです。

持ち帰った後、決定権を持つご家族は、多くの場合、私たちの説明を直接聞いていません。お客様が一人で伝えようとしても、金額の根拠や他社との違いは正確に伝わりにくいのです。

ですから私は、商談の最初から同席しているパートナーにも、本人と同じか、それ以上に話を振るようにしています。パートナーの何気ない一言は書き留めて、次の提案に反映します。

決めるのは誰かを、早めに確かめておくことが、この断りへの一番の備えです。住宅だけでなく、車や保険でも同じです。

【言い方の例】

お客様:「家族と相談してから決めます。」

営業マン:「ぜひご相談ください。ご家族に説明されるとき、気にされそうな点はどんなところでしょうか。」

お客様:「妻は、毎月の支払いと、他社との違いを聞いてくると思います。」

営業マン:「それでしたら、その2点を一枚にまとめた資料をお渡しします。奥様からご質問が出ましたら、いつでもご連絡ください。」

なお、相談したいというお客様を強引に止めてはいけません。広島県消費生活センターの「消費者契約法とは」(2023年6月1日更新)では、第三者への相談の連絡を、威迫する言葉を交えて妨げて勧誘した場合が、契約の取消し事由の一つとして紹介されています。

1-4.「他も見てから決めます」と言われたときの切り返し方

「他も見てから決めます」と言われたら、止めずに、見比べる軸を一緒に整理して、比較に使える判断材料を正直に渡します。他社も見たいと言えるお客様は、それだけ真剣に検討していると、私は経験から感じています。

軸が決まっていれば、お客様は迷いにくくなり、納得して選びやすくなります。ただし、比較は事実だけに基づくことが前提で、他社を低く見せたり、当社に不利な事実を隠したりはしません。

【言い方の例】

お客様:「他のメーカーさんも見てから決めようと思っています。」

営業マン:「ぜひ見比べてください。比べるときの軸が決まっていると迷いにくいので、いちばん大事にしたい条件を教えていただけますか。」

お客様:「耐震性と、間取りの自由度ですね。」

営業マン:「その2点で比べるなら、当社の強みと弱みを先にお伝えします。他社のほうが優れている点も、正直にお話しします。」

2.切り返す前に知っておきたい断りの本音の見分け方と引き際

切り返しは、どんな断りにも使えるわけではありません。使う前に、お客様の断りがどのタイプなのかを見分け、切り返さずに引くべき場面を知っておくことが、信頼を守ることにつながります。

2-1.お客様の断りは拒否・先延ばし・不安の3タイプに分かれる

お客様の断りは、拒否、先延ばし、不安の3タイプに分けられます。同じ言葉でも本音は違うため、言葉だけでなく、気になる点を聞いたときの反応で見分けます。

拒否は、買う意思がない状態です。先延ばしは、迷いが残っていて、決める材料を待っている状態です。不安は、金額や将来、家族の反応などに心配があり、判断できない状態です。

3タイプを整理すると、次のとおりです。

拒否 先延ばし 不安
お客様の言葉の例 「結構です」
「必要ありません」
「検討します」
「また連絡します」
「高いですね」
「家族と相談します」
本音 買う意思がない 迷いが残っている 判断材料が足りない
気になる点を聞いたときの反応 短く断る
話題を変える
時期や条件を具体的に話す 心配な点を具体的に挙げる
対応の方向 切り返さずに引く 引っかかりを一度確かめる 判断材料を整えて渡す
※反応の見方はあくまで目安です。「検討します」が拒否の場合もあります

一つの言葉に複数の本音が混ざることも珍しくありません。タイプは決めつけず、お客様の反応を見ながら更新していきます。

2-2.本音を確かめる質問は責めない聞き方にする

本音を確かめる質問は、お客様を責めない聞き方にします。「なぜですか」と理由を問うと、詰問されたように感じるお客様が多く、本音を隠してしまうからです。

代わりに、「どの点が」と範囲を聞くか、「いちばん気になっている点は」と一つに絞って聞きます。お客様の言葉は最後まで聞き、一呼吸おいてから、同じ言葉を繰り返して受け止めると、安心して話してもらえます。理由を問い詰めず、気になる点を聞くのが基本です。

私が部下に教えるときも、この聞き方から入ります。

【言い方の例】

部下:「所長、『検討します』と言われて、どう返せばいいか分からず、そのままお見送りしてしまいました。」

私:「そういうときは、『なぜですか』って聞くと、責められている気がするんだよね。『いちばん気になっている点はどこですか』と聞いてみよう。次の商談で一回だけ試してみようか。」

部下:「分かりました。次はその聞き方で試してみます。」

2-3.切り返してよい場面と、引くべき場面の線引き

切り返してよいのは、先延ばしや不安のサインが見えるときだけで、確かめるのは一度だけです。お客様が契約しない意思をはっきり示したら、切り返さずに引きます。

国土交通省の「宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する命令」の運用について(国土動指第26号、平成23年9月16日付)は、「お断りします」「結構です」などと言われた後の勧誘の継続を禁止しています。

訪問販売に関する「特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針―再勧誘禁止規定に関する指針―」でも、「結構です」は断りの意思表示と解されます。一方、「今は忙しいので後日にして欲しい」とだけ告げた場合は、あたらないとされています。

「結構です」は引き、「今は忙しい」は確かめる。この違いが、切り返しと押し売りの分かれ目になります。

引くときは、短く感謝を伝え、お客様のほうから声をかけやすい状態を残します。

【言い方の例】

お客様:「いえ、結構です。」

営業マン:「承知しました。お時間をいただき、ありがとうございました。またご入り用のときは、いつでもご連絡ください。」

こちらから重ねて勧誘しないことも、関係を残す大切な姿勢です。お客様が断りの意思を示したあとの、引き止めや帰さない営業は禁止です。適用されるルールは、業種や取引形態で異なります。迷うときは、社内の法務・コンプライアンス担当や所管省庁に確認してください。

2-4.押し売りに見えてしまう切り返しのNG行動

押し売りに見える切り返しには、同じ言葉で食い下がる、架空の期限で急がせる、お客様や家族、他社を否定する、の3つの共通点があります。いずれもお客様の信頼を一度に失う原因になるので、避けてください。

押し売りに見えてしまう切り返しのNG行動3つ
  • 同じ言葉で何度も食い下がる
  • 架空の期限で急がせる
  • お客様や家族、他社を否定する

同じ言葉で何度も食い下がる

一度確かめて返事が変わらなければ、そこで引きます。同じ提案を繰り返すほど、お客様は断りにくさを感じ、不信感だけが残ります。引くときの誠実な対応が、次の機会につながります。

架空の期限で急がせる

「今日までですよ」といった、本当ではない期限で急がせてはいけません。キャンペーンや価格の期限は、本当の期限と条件に限って、正確に伝えます。

お客様や家族、他社を否定する

お客様の考えや、相談相手のご家族、検討中の他社を否定すると、お客様は自分が責められたように感じます。違いは事実だけを伝え、判断はお客様に委ねます。

切り返しは、お客様の判断を助けるためのものです。押して決めさせるためのものではありません。

3.断られる前に手を打つ!初回の商談で判断材料を揃えるコツ

ここまで、断られた後の切り返しと、引くべき場面の見極めを見てきました。次に考えたいのは、そもそも断り文句を減らすために、初回の商談で何を揃えておくかです。

3-1.断り文句が出る原因は、初回の商談で判断材料が揃っていないこと

断り文句が出る一番の原因は、初回の商談で、お客様が判断に必要な情報が揃っていないことです。判断できる材料がなければ、お客様は「検討します」「家族と相談します」と言うしかありません。

私の経験では、多くのお客様が初回の商談でほぼ方向を決めています。今のお客様は、来店前にSNSや口コミで他社まで調べていることが多く、初回で的確な判断材料を示せる営業マンが信頼されます。

断り文句の多くは、判断材料の不足から生まれます。例えば、住宅の見学に来られたご夫婦に、間取りの感想と世間話だけで終えたとします。ご夫婦は金額も他社との違いも分からないまま帰り、後日「検討します」と連絡してくるでしょう。

そこで私は、初回は本題の的確な助言を8割、雑談を2割にとどめ、本題で信頼を得ることを重視しています。

3-2.初回で揃えたい判断材料はお金・比較・段取りの3つ

初回の商談で揃えたい判断材料は、お金、比較、段取りの3つです。初回の商談で、お客様が決められる状態をつくることが、私の考える初回のクロージングです。

ただし、無理に決めさせるわけではありません。持ち帰りたいお客様を引き止めたり、心理的な圧力で即決を迫ったりはしません。判断に必要な情報を初回で揃えることが、お客様への誠実さだと私は考えます。

3つの判断材料と、防ぎやすい断り文句の対応は、次のとおりです。

判断材料 初回で確認すること 防ぎやすい断り文句
お金 毎月無理なく払える額
総額と支払い方法
「高いですね」
比較 検討中の他社の価格・長所・短所
お客様の優先順位
「他も見てから決めます」
段取り 契約から引き渡し・アフターまでの日程
同席者への説明資料
「検討します」
「家族と相談します」
※判断材料を揃えても、断り文句がゼロになるわけではありません。切り返しとあわせて使います

お金

「ご予算はいくらですか」と聞くと、見栄や思い込みでずれやすくなります。毎月いくらなら無理なく払えるかを、生活費やほかの支出も含めてすり合わせてください。

比較

お客様が検討している他社の商品も、価格や長所、短所を事実のとおりに伝えます。お客様が大事にしたい順位に沿って比べると、納得して選んでもらいやすくなります。

段取り

契約から引き渡し、アフターまでの流れを、日付を入れたスケジュール表で説明します。日付は、本当のスケジュールに基づいて示します。同席しているご家族にも、持ち帰って相談できる資料をお渡しします。

3-3.判断材料の伝え方は嘘をつかないことが大前提

判断材料を伝えるときは、嘘をつかないことが大前提です。できないことや都合の悪いことほど、最初に伝えます。

お客様は、都合の悪い話を先に聞くと、その後の説明も信じてくれるようになります。逆に、隠した事実があとで分かると、それまでの説明すべてが疑われます。

嘘をつかないことは、信頼のためだけでなく、法律上の要請でもあります。消費者契約法や宅地建物取引業法でも、事実と異なる説明や断定的な判断の提供が問題とされます。具体的には、次の3つを避けます。

判断材料を伝えるときに避ける3つのこと
  • 事実と異なる説明
  • 不利な事実の隠ぺい
  • 将来の値上がりや利益の断定

どれも、お客様の判断を誤らせる行為です。嘘をつく営業は禁止で、適用されるルールは業種によって異なるため、迷うときは社内の担当部署に確認してください。

【言い方の例】

お客様:「この予算で、広さも立地も希望どおりにできますか。」

営業マン:「正直にお伝えしますと、この立地で今の広さを確保するのは、ご予算では難しいです。広さを少し抑える方法と、予算を見直す方法がありますが、どちらを優先されたいですか。」

お客様:「そうですね、広さは少し譲れるかもしれません。」

4.売れる月と売れない月の差を縮める!切り返しを再現できる技術にする方法

売れる月と売れない月の差は、才能の差ではなく、返し方が場当たりで、再現できていないことから生まれると私は考えています。うまくいった動きを型にして残せば、成績は安定しやすくなります。

私は、本業の営業力を磨くことが最も確実な自己投資だと考えています。毎日の商談で型を試して検証でき、収入と成長と自尊心が積み上がっていくからです。副業や投資を選ぶ方を否定するつもりはありません。

4-1.断られた商談を、その日のうちに書き出して振り返る

断られた商談は、その日のうちに書き出して振り返ります。時間が経つと、断られた場面の細部は忘れ、うまくいかなかったという感覚だけが残り、次の商談でも同じ返しを繰り返してしまうからです。

書き出す項目は、次の4つで十分です。

断られた商談で書き出す4つ
  • お客様に言われた言葉
  • 自分の返し
  • お客様の反応の変化
  • 次に試す一言

例えば「検討します」と言われた商談なら、その場面を思い出して、4つを数行ずつ書きます。1日5分で構いません。小さな改善を、毎日ひとつ積み重ねることが、安定した成績につながります。同僚の上手な切り返しを観察し、よい言い回しを取り入れるのも効果的です。

断られ続けて気持ちが沈み、振り返ること自体が苦しいときは、一人で抱え込まないでください。不眠や気分の落ち込みが続く場合は、医療機関や産業医、厚生労働省の「こころの耳」に相談できます。

過大なノルマやパワハラ、長時間労働に悩んでいる場合は、総合労働相談コーナーや労働基準監督署が相談先です。部下の様子が気になるときも、同じ窓口を案内してください。

4-2.よく言われる断り文句を、同僚や上司を相手に練習する

切り返しは、よく言われる断り文句を、同僚や上司を相手に声に出して練習することで身につきます。本番で初めて試すと、言葉が出てこず、いつもの返しに戻ってしまうからです。

練習する断り文句は、「高いですね」「検討します」「家族と相談します」の3つに絞ります。相手は客役として本気で断り、終わったら良かった点と直したい点を1つずつ伝えてもらいます。

金融庁などが平成29年(2017年)2月に公表した「改正保険業法の施行後の保険代理店における対応状況等について」では、全国の保険代理店100先へのヒアリング結果が示されています。

その中で、トークスクリプトの作成やロールプレイング形式の研修、会議での好事例・失敗事例の共有が、実際の取組として紹介されています。

保険の資料ですが、住宅や車の営業にも通じる考え方です。切り返しを個人の話術に任せず、練習と共有で再現できる形にしていく姿勢が大切です。

4-3.部下の切り返しを伸ばすために、リーダーが意識したい声かけ

部下の切り返しは、結果を責めず、返した言葉を一緒に振り返る声かけで伸びます。「もっと数字を上げろ」とだけ言われても、部下は何を変えればよいのか分からないからです。

自分の商談を書き出して振り返る型は、そのまま部下の指導にも使えます。責めるのではなく、断られた場面の言葉を一緒に見ることが、指導の出発点です。1回の振り返りで直すのは、1つに絞ります。

【言い方の例】

私:「お疲れさま。断られたとき、最初に何て言ったか教えてくれる?」

部下:「『ご検討ください』と言って、お見送りしました。」

私:「丁寧に送り出せていたのは良かったよ。次は、『気になる点があれば教えてください』を一言だけ足してみよう。直すのはそこだけでいいからね。」

部下:「はい、次の商談で試してみます。」

5.切り返しが変わるまでの現実的な期間|3段階の成功事例

切り返しは、1回の練習で劇的に変わるものではありません。話し方や初回接客の型を変えた手応えは、次の商談から1〜3か月ほどで出てきます。成績が安定するまでは、半年から1年を見ておくのがよいでしょう。

ここでは、私が指導してきた営業マンの経験をもとに、個人が特定されないよう状況を一部変えた3つの例を、期間の段階ごとに紹介します。結果には個人差があり、同じ期間で同じ結果になることを保証するものではありません。

5-1.【事例1】3か月で初回商談での成約が出始めた住宅営業のAさん

Aさんは、本題から入る型に変え、断られた商談を毎日書き出して振り返ったことで、3か月で初回商談での成約が出始めました。

住宅営業2年目のAさん(20代後半・独身)は、初回の商談で雑談を盛り上げることに時間を使い、最後は決まって「検討します」と言われて終わっていました。

私は、「本日はどのような目的でいらっしゃいましたか」と早めに本題に入り、お金・比較・段取りを初回で揃えるように勧めました。断られた日は、言われた言葉と自分の返しを5分だけ書き出してもらいました。

「検討します」と言われたら、「いちばん気になっている点はどこですか」と聞くようにも勧めました。最初の1か月は、お客様の返事はほとんど変わりませんでした。2か月目からお客様の反応が具体的になり、3か月目に初回の商談で契約をいただく場面が出始めました。

Aさんは、「雑談を減らしたら、お客様のほうから本音を話してくれるようになりました」と振り返っています。

5-2.【事例2】半年でノルマを安定して達成できた自動車営業のBさん

Bさんは、よく言われる断り文句を3つに絞って練習し、毎日の振り返りを続けたことで、半年でノルマを安定して達成できるようになりました。

自動車営業のBさん(30代半ば・妻と子ども2人)は、売れる月と売れない月の差が大きく、月末になると焦って値引きに頼っていました。

まず、「高いですね」「検討します」「家族と相談します」の3つに絞り、毎週、同僚と声に出して練習しました。高いですねには何と比べているのかを聞く。家族と相談しますには、ご家族が気にされそうな点を聞き、1枚の資料にまとめて渡す。これを型にしたのです。

最初の2か月は、型どおりに言えず、手応えも薄い状態でした。それでも毎日の振り返りを続けるうちに、月末の値引きに頼る場面が減り、半年ほどで、ノルマを安定して達成できる月が続くようになりました。

Bさんは、「焦らなくなったのが、一番の変化です」と話しています。

5-3.【事例3】1年で営業所の上位に定着した保険営業のCさん

Cさんは、年間目標を月と週の行動に分け、断りの線引きを徹底したことで、1年で営業所の上位に定着しました。

保険営業のCさん(40代前半・共働きで子ども1人)は、経験は十分にありましたが、成績に月ごとの波があり、部下への指導にも悩んでいました。

Cさんが取り組んだのは、年間の目標を月と週の行動に分け、毎日の振り返りを続けることです。「結構です」と言われたら引き、先延ばしや不安のサインには確かめる、という線引きも徹底しました。お客様の意向に沿わない提案は、しないと決めたのです。

さらに、部下の商談を一緒に振り返り、1回に直す点を1つに絞って伝えました。最初の半年は成績の波が残りましたが、1年ほどで営業所の上位に定着し、部下の成績も安定してきました。

まとめ

今回は、断り文句別の切り返し方と、断りの本音の見分け方、断られにくくする初回の準備、再現できる技術にする方法をお伝えしました。要点は次のとおりです。

切り返しで押さえたい4つのポイント
  • 断りは拒否・先延ばし・不安に分け、「結構です」と言われたら引く
  • 先延ばしや不安には、気になる点を一度確かめて判断材料を渡す
  • 初回でお金・比較・段取りを、正直に揃える
  • 書き出しと練習で、切り返しを再現できる形にする

営業は才能ではなく、正しい手順で再現できる技術です。まずは次の商談で試す行動を1つだけ決めてください。「検討します」と言われたら、気になる点を一つ聞く。それだけで十分です。

手応えは1〜3か月、安定には半年〜1年かかりますが、一歩ずつ積み上げていきましょう。

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